19XX年4月1日 メイド・グッバイ
◇お仕置き「――と、まあ……こんな具合だ」
シミュレーションを終えたヴァルターは、どこか得意げに笑ってみせる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
しかし、誰も彼もが無言だった。
例外は素知らぬ顔のテスラだけだったが、彼以外の視線はとある人物へと向けられていた。
「あら、あら。駄目ね、ヴァルター君」
いつも通りのたおやかな微笑み。
しかし、今はどこか威圧感さえ与える表情。
ナイチンゲールは、ヴァルターを見据えていた。
「なにを言う。
速度を重視した理想的な接客だ。
人生において、速度とは――」
「喫茶店は、お客様にごゆりとくつろいでもらう場所なのだから。
お姉さん、それはいけないと思うの」
彼の持論を遮って、有無を言わせない声。
表面上は笑顔だが、ある意味ではそれ故に恐ろしい。
「……これは。お仕置き、ね」
ポツリ、と彼女が呟いた瞬間。
誰も彼もが、ヴァルターから目を逸らした。
彼はそれを不思議に思った瞬間、不意に視界が塞がれる。
「ちょっと、待――」
ミシリ、と頭蓋に圧力を感じた。
彼の視界を塞いだのはナイチンゲールの右手であり、
片腕でヴァルターの頭を掴んだ彼女は、
ニッコリと微笑みながら彼をそのまま引きずっていく。
「ネオン。少し、店の奥を借りますね?」
「痛い、痛い痛い! 悪かった!
今回は俺が悪かったか――アアアァァァッ!?」
「駄目、です(ハート)しっかり、反省しましょうね」
店内に響くヴァルターの絶叫。
こうして、彼はキッチンへの配置が決まったのだった。
「やれやれ」
そんな彼の姿を見て、軽くため息を吐く者がひとり。
「仕方ない。私が手本というものを見せてやろう」
かつての教え子の不手際を嘆くと、《雷電魔人》ことニコラ・テスラの接客シミュレーションが始まるのだった。