19XX年4月1日 メイド・グッバイ
◇注文

「その、何というか……」

「すごいお店、ですね」

 座席から店内の様子を見渡して、ネオンははうっと息を零した。
 入店当初は店内の雰囲気に飲まれていたが、今はどちらかというと――

「お待たせしましたぁ、ご主人様!」

 ネオンの言葉を遮るように、快活とした声が聞こえてくる。
 弾けるような笑顔を浮かべている少女は、やはりメイド服を着ていた。
ネームプレートを見ると、『しぇら』と名前が書かれている。

「ご注文の『メイド特製愛情たっぷりオムライス』で~す☆」

「ああ、それはこちらの注文だ」

 メイド服――先ほどのセバスのものとは異なり、スカート丈が短い。
 胸元もはだけていて、どこか露出も覆い。
 ネオンの知るメイド服とは一線を画したそれを着こなすメイドは、満面の笑みで注文の品を持ってくる。
 更に加えて言えば、彼女の容姿は些か特異だった。
 獣を連想させる耳に、肘あたりから生えそろっている体毛。
 ネオンはイズミを思い出すが、彼女のアレはここまで顕著ではなかった。

「じゃっ、ケチャップで好きな文字書いちゃうね? 何がいいかな?」

「ん。では、輝きシャイニーと」

「アイマ!」

「アイマ?」

 聞き慣れない返事に、ネオンは首を傾げてしまう。
 しかし、その間に、シェラは器用にケチャップで文字を書いていった。

「それじゃ、最後の仕上げね!」

「今からシェラがご飯が美味しくなる魔法かけちゃうから、ご主人様も一緒にね? ね?」

「ほぅ、魔法か」

「うん、そだよ~☆」

 シェラは無邪気に笑って、両手を合わせてハートマークを作って――

「美味しくなーれ」

「萌え☆萌え――キューン!」

「…………」

「ぅ、あ……え……?」

 聞き慣れない言葉。
 異様なテンション。
 その温度差に、テスラとネオンは思わず言葉を失う。

「美味しくなーれ――」

「あ……やっぱり、それやるんだ」

 チラッとふたりを見て、めげずに笑うシャラを見て。
 ネオンは苦笑交じりに呟きを漏らした。

「萌え☆萌えキューン!」

 そんな時、後ろの席からノリノリで声が聞こえてくる。
 ネオンは振り返ってみると、

「…………」

「(アルベール、ここにいたんだ……)」

 そこには、緩みきった表情で、メイドと戯れている同級生の姿があった。
 とりあえず、ネオンはそれを見なかったことにした。