19XX年4月1日 メイド・グッバイ
◇醒める夢と消えない想い「――オン」
――ゆさゆさと、身体を揺すられる感覚。
「――ネオン」
――ふわふわとした心地、段々と醒めていって。
「――おい、ネオン」
――重いまぶた、開いて。
――あたしは、目を醒ます。
「マス……たぁ……?」
「そうだ。私が分かるな?」
どうやらいつの間にか寝入ってしまったらしく、ソファーに寝ていたネオンをテスラは見下ろしていた。
「ごめんなさい、マスター。あたし、いつの間にか寝てて……」
「いや、それ自体は問題ない。ただ――」
どこかばつが悪そうなテスラに、ネオンは違和感を覚える。
「〝あのこと〟について、お前は覚えているか?」
「あのこと、ですか……?」
テスラの言葉の真意が分からずに、ネオンは首を傾げる。
「いや、特に覚えがないのならばいい」
そのまま視線を逸らすと、テスラからはそれ以上の言及はなかった。
「あ、でも、そう言えば――」
「夢、見ていたような気、するんです」
「夢……とても、悲しい夢……だったような」
夢の内容はネオンも覚えていない。
しかし、頬に残る涙の跡。
きっと、自分は泣いていた。
彼女にはある種の確信があった。
「……そうか」
「でも――」
少し表情を陰らせるテスラだが、ネオンの表情は穏やかだった。
確かに彼女の見ていた夢は、とても悲しいものだったのかもしれない。
しかし――
「それと同じくらい、楽しくて。嬉しかったんです」
既に記憶は失っていても。
彼女の心に刻まれた感情、想い。
輝かしいそれらを、ネオンは覚えている。
きっと、それは――
愛しい彼が愛して止まない――
〝輝き〟、そのもので――
「だから、きっと悪い夢じゃなかった。そう、思うんです」
「ん。ならば、よし」
こうして、ふたりは笑い合う。
四月の饗宴は終わりを告げ、彼らの元には再び日常が訪れる。
しかし、もらった言葉。想い。胸に抱いて。
変わりゆく季節を寄り添いながら過ごしていく。
願わくば――
いつかまた、巡り会えることを祈って。
<END>