19XX年4月1日 メイド・グッバイ
◇ヴァルター・リッツの場合

「いらっしゃいませ、お客様。お一人様で間違いないか?」

「そうか、ならば着いて来い」

「遅い。もたもたするな。死ぬ気で走れ」

「店内を走るな?なにを言う。走るのは尊い。
走ることは速度を生み出す。
人生は有限だ。であればこそ――」

「移動は全力で。それでこそ、速度は保たれる」

「よし、すぐに席に着け。これがメニューだ」

「さあ、選べ。注文は一分以内に、それで充分だろう?」

「いいか、人生において速度とは(以下略)」

「もういい、注文はこちらで決める」

「コーヒーだ。無論、砂糖やミルクなど余計なものは必要ない」

「オーダー、ブラックコーヒーを一つ!」

「無駄に凝った手間など不要だ。インスタントで構わん。三十秒で用意しろ」

「さあ、飲め。早く飲め。一分以上の時間はかけるな」

「そうだ、飲み終わったら即座に会計だ。
釣りは要らん。とにかく速度を重視しろ」

「退店も迅速に。お前の人生に速度があらんことを」

「また来る時は、もう少し速度を上げられるように精進するんだな」

「以上、またのお越しをお待ちしている」