19XX年4月1日 メイド・グッバイ
◇サムライはライスボールの夢を見るか?

「と言うことで、男子陣とあたしがはキッチン。他のひとはウェイターでいいですね?」

「さんせーい!」

「うん。僕は構わないよ」

「あたしも意義はないさね」

「ええ、それがよいでしょう」

 シミュレーションを終えると、ネオンは最終的な人選を発表する。
 あの二人を給仕に回すわけにもいかず、消去法としてこのような配置となった。

「正直、僕も自信とかなかったけど……」

 アナベスは苦笑気味に言うと、視線をキッチン前へと移す。
 そこには『私はウェイターにあるまじき接客を行いました』という札を首からかけられたヴァルターとテスラが正座させられていた。

「まあ、あのふたりに比べたらマシだろうし」

 白目を剥いて未だに意識が戻ってこないヴァルターを見て、
 アナベスはどこか憐れむように呟いた。

「では私は会計を担当しましょう。計算事には自信があります」

「そうですね。じゃあ、よろしくお願いします。
レディ・エミリー」

「では、僕はキッチンというわけか。任せてもらおう」

「えっと、ベルタちゃんは……その」

 公的な性別は男性であるが、本来の彼女は女性だ。
 なので、ネオンはどうしたものかと言葉を詰まらせる。

「いくら予めネオンが調理済みとは言え、
あのふたりだけに料理は任せられないだろう?」

「うん、それはそうだけど……」

「安心して欲しい。料理には少しばかり覚えがある。
得意料理はライスボールだ」

「そうだ――」

 得意げに言うと、ベルタは荷物から包みを取り出す。

「みんなへの差し入れに、ライスボールを握ってきた。
試しに食べてはくれないか?」

「うわぁ――これが極東のライスボール!」

 笹の葉に包まれた綺麗な三角形のおにぎりを見ると、
 ネオンは感心したように声を漏らす。

「それじゃ、いただきます」

 嬉々としておにぎりを手に取ると、そのまま口にするネオン。
 しかし、その笑顔は硬直してしまう。

「…………」

「あの、ベルタちゃん」

「その――」

 おにぎりから口を離すと、ネオンは言いにくそうに言葉を濁す。

「……ネオン?」

 突然、食べることを止めてしまったネオンを見て、ベルタは不思議そうに首を傾げる。

「もしかして、おにぎりは苦手だったのだろうか?」

「なら、付け合わせのザワークラウトと一緒にどうかな?
極東ではウメボシやタクアンを付けるのだから、合わないはずがない」

「ライスボールにザワークラウト!?」

 予想もしない付け合わせに、思わず素っ頓狂のような声を上げてしまう。

「あのね、ベルタちゃん、そうじゃなくて――」

「このおにぎり――」

「固くて、歯が通らない……の」

「あはは! やだな、ネオン。いくらなんでもそんなに固いわけ――」

 冗談と受け取ったジョウは思わず笑ってしまい、
 自分もおにぎりを口にしようとする。

「って――固ッ! このライスボール、固すぎだって!!」

「なん……だと?」

 ジョウの反応を見て、ベルタは愕然とした表情で目を見開く。

「いや、しかし……確かに一生懸命握ったが、食べられない固さのわけが――」

 真偽を確かめるべく、自らもおにぎりに口をつけ――

「あった、ようだ……」

 ガクリ、と項垂れる。
 そんなベルタを見て、ネオンとジョウは肩に手を置いて

「その、まあ……ドンマイ!」

「ベルタちゃん。キッチンにはあたしが入るから、給仕をお願いできる?」

「かたじけない……」

 こうしてようやく配置も決まり、喫茶店は開店時間を迎えるのだった。