19XX年4月1日 仮想給仕遊戯《断章》
《幕間:使用人用控室》

十数人の男女がめいめいに座っているホール内に、少女の声が響き渡る。
いつもは流している、桃色の髪をきっちりと纏め上げ、黒いワンピースと大振りのフリルの付いたエプロンを付けた娘は、豊かな胸を張り。
熱意と輝きに満ちた、黄金色の双眸で見渡しながら、緊張に負けないように、声、朗々と張り上げて。

「さて。皆様お揃いになった所で。今回の《お祭り》のテーマは『使用人喫茶』です。
皆さん手元の資料でお判りの様に、旧世紀の欧州は大英帝国の家事使用人文化と喫茶店文化を融合させた、おもてなし方法です。
この後の時間はアフタヌーンティーではなく、ハイティーと呼ばれる形式になります。
よって。昼と夕方で制服も変わります。
今現在お手伝いして頂いてる方は、既に制服を着て頂いておりますが、着替えて頂くことになります。
ですが、それだけだと面白みがないですよね?」
そこで、少女は言葉を切り、目線で合図を送った。もう一人控えていた。柔らかな金色の亜麻色の髪の少女が進み出る。

「折角の《お祭り》なので、今回はガラッと趣向を変えてみる事にいたしました!」

桃色髪の少女の宣言を受け。亜麻色の髪、薄赤色の瞳の幼気な少女は、一礼すると。姿からは想いもよらぬ、然りとした淑女の物言いで。流々と述べた。
「本日はお忙しい中。お手伝い頂き有難うございます。
先程のネオンさんが仰った通り、夕刻からの大事なお客様をお迎えするにあたって、準備をして頂くと同時に、特別の衣装に着替えて頂きます。
皆さんの寸法を見させて頂き、お直しさせていただいてますが。
先刻と同じ様に、もし合わなかったらキーアに仰って下さいね。対応させて頂きます」

少女の弁が終わり、一礼して壁際に退けば。中央の自動式扉が左右に開き、転付きの移動式衣装棚を押して来る二人が見えて。
ごろごろと押されてきた衣装棚よりも、押してきた二人に、全員の目が釘付けになって、動揺(どよめき)が走った。
そこには、黒い三つ揃えの背広(スーツ)を着た黒猫の女と。
外套(コート)じみた黒いワンピースと白いエプロンを纏った。黒髪で眼鏡掛けた青年医師がいたのだから。

数多の扉の果てに、突然集められ、戸惑いながらも此処に居る面々の内、幾人かは「やっぱりか」と思ったことだろう。
しかし、此処に招かれた時点で拒否権は在り得なかった。
それは黙りを決める漆黒の男さえ。同様だったのだから。